大阪・関西万博の入場券販売関連サービス~PartⅡ後編~

2025.08.01

Profile

取締役(CS部・開発部管掌) 吉津 宗吾

2000年に合同会社ユー・エス・ジェイに入社し、パークシステムの導入に従事。一度会社を離れ、多数の会社でシステム構築の事業を担当。2015年に再度株式会社ユー・エス・ジェイへ入社、新POS、ゲート導入に携わった後、2016年にシステム情報室 室長として従事。2019年より株式会社グッドフェローズへ入社し、現職は取締役 (CS部・開発部管掌)。

2022年3月に、ぴあ株式会社、株式会社JTBコミュニケーションデザイン(JCD)、株式会社グッドフェローズの共同事業体として、大阪・関西万博の「入場券販売関連サービス」を受注したその後、どうなったかについてお話する後編です。

前編の記事はこちら >

システムが複雑である

システムが複雑であるという点について、前回は余り言及できなかったのですが、もう一般的に知られているため、記載しても問題ないかと思います。

1つ目は、万博IDの取得やログインに「多要素認証」が盛り込まれたことです。
協会のセキュリティポリシー上、公式販売予約サイトへのログイン時に万博IDが必須となるため、導入はやむを得ないのですが、これにより世間でも一部批判が上がり、チケットを買うのが面倒という風評につながりました。後にコンビニで引換券を販売することにつながっていきます。
アプリの操作性を容易にするのか、セキュリティを重要視するのかは永遠のテーマといえます。

2つ目はアクティベートが必要なチケットであるということです。開発時に求められたのはオープン券(日時指定のない券)を先に販売し、そのチケットに日時を指定して初めて有効にする(アクティベートする)機能があることでした。
つまり公式販売予約サイトで、QRコードがある入場チケットを表示させるにはチケット購入の他に、来場日時予約を完了する必要があるということで、日時予約をするまではQRコードは表示されません。
並行して一日券、平日券、夜間券など入場可能な日時による制御も必要でした。
また、万博IDと入場チケットIDを紐づけないと来場日時予約ができないため、チケットをまとめて購入された方と使用される方で来場日時が異なる場合は、両者でお持ちの万博ID間で電子チケットの受け渡しが発生し、この機能も全くの新規開発となっています。

3つ目は入場チケット用のQRコードで、パビリオンやイベントの着券処理も行うという機能です。
この機能が必須だったため、チケットIDにパビリオン・イベントの日時予約情報を紐づける必要がありました。 ご家族分のチケットをまとめて、同じ来場日時や同一のパビリオン・イベントを予約したいという要望にも対応できるよう、第三者のチケットIDをまとめて予約申込みできる機能も実装しています。
まとめて予約したのに一人だけ予約できていないなどのトラブルは、必ずしもシステムの不具合ではなく、お客様の誤解や操作ミスによる場合もあるのは、複雑なシステムであるということも要因になっています。
同様に抽選や空き枠の予約も複数回用意しているため「どうやったら予約ができるのか」「何がいつ予約できるのか」という声がいまだに巷にあふれているかと思います。

お客様に複数回の抽選の機会を与えて「よりサービスを高めたい」というビジネス要件は要件としても、それが却って分かりにくくしているということも事実であり、上述の操作性とセキュリティの話と同様でメリット・デメリットを十分検討する必要があると感じています。

データ量が膨大、かつ、アクセスの集中度が高い

データ量が多くなることと負荷が高いということは十分意識してシステムインフラを構築していましたが、空き枠先着申込開始(3日前0:00)と朝一の入場後10分前後に公式販売予約サイトへのアクセスが集中し、スパイクと呼ばれる急激なアクセス増加により仮想待合室が混雑する状況が発生しました。

空き枠先着申込については、ログインをして仮想待合室で待機するユーザーが土日の4日前の22:00頃から増加し、アクセスが集中していることが分かっています。
また、来場当日に空き枠状況のボタンを連打してパビリオンの空きを確認するお客様が多発し、スパイクが発生しています。
仮想待合室を発生させるタイミングを遅くしすぎるとシステムへの負荷が増え操作性が低下し、早くしすぎると順番待ちをする時間の長さでお客様の不満がたまります。いずれにしても微妙なバランスを取りながら、日々改善をしているのが現状です。

当日登録(予約)端末機では、来場者が集中する午前中に更新処理の反映が遅れ、公式予約販売サイトに入場着券済みのデータがなかなか反映されないという問題があります。
ネットワークのサービスについてはベストエフォート型を協会・JVが選択してしまったために、同じ回線を使う他の企業のアクセスの影響を受け、入場ゲート着券のスピードが遅れるという事象も発生しています。これらはいずれも改善対応をしていますが、要件定義や負荷テストの時点では想定しきれない事象でした。

最後になりますが、注目されたイベントということも今回のシステム構築が大変な理由でもあります。上述でも少し記載しましたが、要件定義でお客様に良かれと思ってそのままにしていた部分が万博フリークと言われる方々によって、それらがシステムの “穴” としてSNSで拡散され周知の事実となり、却って混乱を招きました。そのため結局はシステムの改修をしなければならなくなりました。日本中(世界中?)に注目されるイベントの一般コンシューマ向けのシステムは、やはり難しい(怖い)と痛感しました。

上述してきたように、難易度の高いプロジェクト並びにシステムでありながら、「開場ができない」「営業ができない」といった致命的なトラブルが発生することなく、大阪・関西万博のテストランおよび本開幕が実施されていることは、一定の成果が現れているものと受け止めています。
まだ会期終了まで約3か月を残しており、今後もさまざまな課題が生じる可能性は十分にありますが、引き続き閉幕まで全力でサポートしてまいります。